ONELOVE すべての犬に愛と家族を。

special interview

獣医師として日々、動物たちの命に向き合っている岸川直幹さんは、メリアル・ジャパンが展開するフロントライン セーブペットプロジェクトの活動理念に賛同し、2012年からご自身が院長をつとめる病院でも処方したフロントラインの収益の一部を病院独自に寄付してくださっています。 今回は、地域に根ざした獣医療を実践する中で、行政と住民を巻き込んだ地域猫のプロジェクトについてもお聞かせいただきました。

ONE BRAND(以下、O.B.) 獣医師を志した理由はなんですか?何かきっかけがあったのですか?

岸川 とても月並みな答えなのですが(笑)、小学生のころに飼っていた犬たちが病気になったとき、無力な自分が子供ながらに悔しくて、「大人になったら、獣医になって病気の犬を助けてやるぞ!」と心に決めたんです。

O.B. どんな犬を飼っていたのですか?

岸川 当時飼っていたのは、雑種の親子でピコとチーコ。2頭とも残念ながら最後は犬フィラリア症で亡くなりました。昭和50年代のことで、まだ日本では犬の健康への意識が低く、私の家でも犬は一年中屋外飼いで犬フィラリア症予防は何もしていませんでした。でも、だからといって彼らを大切にしていなかったわけでは決してありません。2頭は私にとってかけがえのない大切な家族。彼らとの暮らしを通じて、犬と暮らす楽しさや命の大切さなど、いろいろなことを教わったのです。私が獣医師になるという夢をかなえられたのは、あの2頭のおかげといっても過言ではありません。
その後、大学進学で実家を離れ、一人暮らしをしていた時も含め、ずっと犬と一緒に暮らしてきました。今ももちろん、飼っていますよ!

O.B. 今年で獣医師になって22年目、御殿場市にユウ動物病院を開業して15年目を迎えられましたが、獣医師として一番大切にしていること、心がけていることはなんですか?

岸川 やはり「飼い主さんの代役をしているのだ」という意識を忘れないことです。私たち獣医師や動物看護士は、それぞれ専門分野を学んでいるので、知識や技術があります。だから飼い主さんは私たちに大切なペットの治療や看護を任せてくれるのですが、もし自分に知識や技術があれば、飼い主さんはきっと自分の手で愛するペットを治療したり看護したりしたい、というのが本音だと思います。だから私がいつも心がけているのは、飼い主さんの気持ちを理解し、意思を尊重すること。そして飼い主さんの立場に立って、動物たちのためにベストを尽くすことです。
また、これは当然のことかもしれませんが、獣医師として常に学び続けることも心がけています。動物医療の世界は日進月歩で、勉強を怠るとすぐに「時代遅れ」になってしまいますから、「あの治療法を知っていれば」「あの薬を試していれば」と後悔しないために、私は今でも毎日最低1時間半は勉強して、最新の情報収集を怠りませんし、院内の若手獣医師にも奨励しています。常にその時点で最高の動物医療を提供できるように頑張っています。

O.B. ユウ動物病院のある御殿場市は、飼い主のいない猫を地域ぐるみで管理する「地域猫保護活動」に取り組んでいるそうですね。ユウ動物病院では、この取り組みに、どのように関わっているのですか?

岸川 御殿場駅周辺の商店街では、数年前から飼い主のいない猫が増え、糞尿の匂いやゴミの食い散らかしが問題になっていました。そこで、昨年、解決策をさぐるための話し合いの場が持たれることになり、私も出席してみることにしたんです。
出席していたのは、地域住民(主に商店街や地元自治会の方々)、御殿場市及び、御殿場保健所の方々、そして私たち動物医療の関係者でした。それぞれの立場から意見を述べ合って、「地域猫として管理するには、避妊・去勢手術が必要だ」という結論は出たのですが、問題は手術費用の捻出でした。そこで私は「お金のことは後で考えることにして、まずできることをやろうよ」と提案、ボランティアの方々が捕獲してきた猫を、駿東獣医師会員をはじめとする地域内の獣医師が分担して手術することにして、動き始めました。
同時にボランティアや行政、地域住民の方々は餌場の清掃やトイレの設置をスタート、まさに官民一体となった地域猫管理が始まったのです。さらに地域の方々が自発的に募金活動を始めてくれ、集まった寄付金と行政からの補助で手術費が賄えることになりました(もちろん手術費は特別価格です!)。今では70頭いた猫のうち63頭の避妊・去勢手術が終了、住民やボランティアによるパトロールも功を奏し、糞害などに悩んでいた町はすっかりきれいになりました。

O.B. 地域猫の取り組みが成功した理由はなんでしょうか?

岸川 議論に終始せず、行動に移したことだと思います。立場の違う人が集まると、それぞれの意見を主張するだけで、貴重な時間が消費されてしまいがちですが、それは非常にもったいないこと。せっかく「猫をきちんと管理したい」という目的は同じなのだから、それに向かって、各自がそれぞれの立場でできることを、一日も早くやってみる。これが非常に大切なんですよね。とりあえず行動を起こしてみて、あとは走りながら考え、答えを見つけていけばいいんじゃないかと思うんですよ。動物の殺処分の問題もそうですよね。いろんな立場の方々が意見を戦わせているだけでは、何も解決しない。初めからビシッと足並みをそろえようとせず、とりあえず、それぞれが一歩を踏み出してみればいい。立場はバラバラでも、目的が同じなら、きっと前進しますよ。

O.B. 殺処分を減らすために、岸川先生はどんなことを実践されていますか?また、獣医師の果たす役割とはどのようなことでしょうか。

岸川 私は獣医師として目の前の動物の病を癒し、命を救うことにベストを尽くしています。その姿を通じて、命の大切さを飼い主さんや地域の方々に、伝えていけたらいきたいと思っています。また、子供たちに動物と暮らす楽しさ、動物愛護の必要性、命の大切さなどを啓蒙することも、獣医師の役割の1つですね。
さらに、「できる限り地域に根差した医療を行うこと」も、獣医師にできることの1つ。例えば、うちの病院にはよく近所の迷い犬が持ち込まれるのですが、地元に愛犬家のネットワークがあるので、「こんな犬を保護しているんだけど、心当たりないですか?」と投げかけると、口コミで情報が広まって、たいがいは飼い主が判明するんですよ。里親が必要な時も、同じように口コミで探せば、ほぼ100%みつかります。私自身も、最近、猫を1頭引き取ったばかりですし(笑)!このように動物病院が地域に溶け込み、「動物のことで困ったら、あの病院に相談しよう」という意識を、地域の方に共有してもらえれば、「すぐに保健所に連れて行こう」という発想に至らないはずですよね。

O.B. 最後に読者のみなさんにメッセージをお願いします。

岸川 「日本の動物医療はようやくグローバル水準に追い付きつつあるが、動物福祉の水準はまだまだ」とよく言われますよね。でも、私はここ最近、日本でも動物福祉への意識・関心が市民レベルでは、すごく上がってきていると感じています。特に東日本大震災以降は、ボランティアに参加する人も増えてきましたよね。こういった意識の変化が、いつしか大きなうねりとなり、社会をより良い方向に変えてくれることを期待しています。
今の一番の課題は、動物を取り巻く問題を知らず、関心も持っていない人が、まだまだたくさんいること。その意味で、私たち「知っている人間」が果たせる役割は、すごく大きいんじゃないかな。
みんな立場は違えど、「一頭でも多くの犬を救いたい」という気持ちは同じ。 各自が目の前の「できること」に取り組んで、大きな一歩を作り出しましょう。

岸川直幹(きしかわなおもと)

『ゴテンバ動物医療センター ユウ動物病院』
http://www.you-amc.jp/