ONELOVE すべての犬に愛と家族を。

special interview

2011年にフランスの芸術文化勲章の最高位コマンデュール章授与という栄誉を受けるなど国際的なファッションデザイナーとして第一線で活動を続けている山本耀司さん。物心ついたときから、犬がそばにいるのが当たり前だったと言います。そして2012年の夏から秋田犬の凛ちゃんと一緒に暮らし始めました。海外での仕事も多い山本さんが語る愛犬への思いは、日本の今をじっくりと考えさせられるものでした。

みんなが着ているからという安易な理由で洋服を選んではいけな。
もちろん、動物も同じだよね。
僕はこの子と人生をともにするよ。

ONE BRAND(以下、O.B.) 凛ちゃんと暮らし始めたきっかけはどんなことですか。

山本 スタッフがインターネットで探してくれていて、この子の写真が出たとたん、『ちょっと待って!』って声を上げてしまいました。一目ぼれです(笑)。そのあと親しいペットショップのオーナーを通じて譲ってもらいました。ブリーダーさんは僕のことをご存知で、『山本さんなら』って喜んでくださいました。
僕は、ずいぶんいろんな犬と一緒に暮らしてきましたけど、5年くらい前に飼っていたベルジャンシェパードが病気で亡くなったときの様子があまりにも痛々しくて。もうあんなに辛い思いをしたくないと思っていました。それに年に4~5回、少なくとも一週間程度のパリ出張があるし、最近は中国出張も増えていますから、犬を飼っちゃいけないって自分を戒めてきたんです。でも、やっぱり犬にそばにいてほしくなって。
次に飼うなら僕の人生最後の愛犬だと思っていましたけど、こんな美女に会えるなんて、幸せですよ(笑)。それにね、よく見たら凛の首の部分の白い毛が「Y」なんです。僕のために生まれてきてくれたんじゃないかなって思っています。
こういう純粋な生き物ってある意味で、天使のような存在だなと感じます。僕は凛と会社にも一緒に来るんですけど、スタッフたちとのミーティングのときに、凛がいるだけでその場の雰囲気がやわらかくなるんですよ。僕自身はもちろんですけど、スタッフにも笑顔が増えたかもしれないですね。

O.B. 日本犬を探していたんですか?

山本 そうです。僕は洋犬も日本犬も飼ったことがありますけど、日本犬ってどこか日本人っぽい。とても繊細だし、忠誠の具合がね、人間同士のような感じがするんです。それが人生最後の愛犬にふさわしいんじゃないかなと思いまして。シェパードなどの洋犬には「Sit!」「Wait!」って英語で話していましたが、凛は秋田犬なので「おすわり!」「待て!」って日本語で接しようと思っています。

O.B. 海外への出張が多いそうですが、一緒に行きたいなとは思いませんか。

山本 思いますよ。とくにパリではカフェやレストランで飼い主の足元に愛犬がいるのが当たり前のようになっているから、凛と来たら楽しいだろうなと思うけれど、帰国したときに検疫で1週間も留められてしまうでしょう。日本やイギリスは島国だから仕方ないことなのでしょうけど、あまりにかわいそうで。だから残念だけど、凛を連れて海外出張へは行けませんね。もっとも、パリの家には家内と息子と三頭の猫がいるので、凛を連れて行ったらどうなるかなと想像するのは楽しいですよ。
日本でも犬を同伴できるカフェが増えてきましたけど、レストランはまだまだですね。公園などでも犬と一緒には入れないところが多いし。それが残念です。でも、近所で店の外にテーブルが出ているカフェをいくつか探してありますから、そこでデートしますよ。

人間の価値観が変わらないと
動物たちに対する態度は変わらない

山本 パリで暮らしていたとき、たとえば冬、ヒーターが止まって修理に来て欲しいと頼むと「すぐ行く」と言っても2~3日、「3~4日待って」と言われれば一週間なんてことはザラでした。最初は驚いたけど、だんだん慣れましたね。パリには自動販売機もコンビニもほとんどありませんが、そのくらいの不便さでちょうどいいと思っています。人間の欲望を実現しようとするのが文明ですが、人間の欲望は限度を知らなすぎる。だから人間は自分たちの欲望を満たそうとして地球も汚してきてしまったわけです。
フランスでは18世紀に人権宣言をしましたが、その標語でもある「自由・平等・博愛」は、人々の中に生きていると思います。犬などの小さな命も大切にします。

O.B. 今冬、フランスのある地方では、路上生活者に冬を越すためのキットが配布され、路上生活者の飼い犬にも同じように配布されたそうですね。

山本 私たちは暮らしを便利にするための文明を追いかけるばかりはなく、人間としての文化度を高めなくてはならないと思うのです。じゃあ、どうすればいいのか。僕は、今の便利すぎる日本を反省し、昔の生活に価値観を見いだすことで、なくしつつある大切なものを思いだすことができると思っています。それは、多少不便でも心が豊かな時代の価値観。人間の価値観が変われば、動物に対する態度も変わるはずだと思います。
僕はいつも、「みんなが着ているという理由で洋服を選ぶな」と言うんです。動物に対してもそうでしょう。「みんなが飼っているから自分も」というのは間違っていますよ。自分がきちんと育てられるかどうかをよく考えてからでなくてはね。
実はね、凛と出会う前に、飼い主がいなくて困っている子たちがたくさんいるんだから、その子たちの中から選ぼうと思ったんです。でも一頭だけ選ぶことはできないし、だからといって全ての犬を引き取ることもできない…。そういう切ない気持ちのときに凛と出会ってしまった。だから僕はこの子と一生連れそうつもりです。そうですね、言ってみれば“終のパートナー”みたいなものなのかな。

山本耀司(やまもとようじ)

1966年慶応大学法学部卒業。1972年に株式会社ワイズを設立。東京コレクション、パリコレクション、ニューヨークコレクションなどで次々と作品を発表。舞台や映画などの衣装も多く手がけ、北野武監督作品『BROTHER』『Dolls』『TAKESHIS'』などでも衣装デザインを担当している。2004年に紫綬褒章、2005年にフランスの国家功労勲章オフィシエ、2006年に英国王立芸術協会の名誉ロイヤル・デザイナー・フォーインダストリーなど、国内外の各章を受賞。2011年にはフランスの芸術文化勲章コマンデュールを叙勲された。