ONELOVE すべての犬に愛と家族を。

special interview

戦場ジャーナリストとして世界の紛争地を取材し続けてきた山路徹さん。近年では、被災地の犬猫を救う活動や殺処分問題についての講演会を行うなど、動物の愛護活動も精力的に行われています。 幼少期の愛犬コロとの思い出をはじめ、今を生きる子どもたちへの危機感や日本社会が持つ問題点など、ソフトな語り口のなかに秘めた熱い思いがうかがえるインタビューとなりました。

日本の子どもたちに自然な形で
想像力と命の大切さを伝えていきたい

ONE BRAND(以下OB) 山路さんの犬との最初の出会いはいつですか?

山路徹さん(以下 山路) 僕が幼稚園の頃ですね。ある年の冬に、父親がコートのなかに何かを抱きかかえて帰ってきまして。父親がぱっとコートの前を開けたら子犬が出てきて(笑)。話を聞いたら駅から家まで歩いていたらずっとついてきたらしいんですよ。

ところがね、父親はそう簡単にその犬を飼ってくれなかったんです。何かこの犬を飼う理由が欲しかったんでしょうね。ちゃんと家が分かるかのテストをしたりしまして。でも父や僕たちの想像をはるかに超える賢さを見せてくれたんですよ。

OB それで晴れて山路家の家族となったわけですね。

山路 それが一番最初の犬です。コロッとしてたので名前は「コロ」。動物がいるだけで家の雰囲気が変わっていくんですよ。飼っているというより、親友みたいな存在でした。心が通じあってくると、今を生きている命として尊重するようになりました。

OB コロとは何歳くらいまで一緒に過ごされていたんですか?

山路 小学校高学年くらいまでですね。死んだ時は大泣きをしました。子ども心に「もう会えないことがこんなに悲しいものなんだ。こんなに涙が出てくるものなんだ」と。

OB 初めて命と向き合う体験になったんですね。

山路 幼少期に動物と生活すると、こういった体験を通して命の大切さがわかる。でも、今は住宅環境などの問題で犬を飼うということが難しい子どもたちもいますよね。命がなくなった時に涙を流すという体験がないまま大人になる人もいる。

以前からもらい手の見つからない犬猫は学校など地域のみんなで育てるのはどうだろうと考えていたんですよ。自然と犬猫に出逢い、育てるような経験を子どもの段階で味わうことこそが、命の教育になるんじゃないかと。僕は動物愛護に関する様々な活動をしていますが、実は大人に向けてというよりは子どもたちに向けて行なっているんです。

OB 具体的にはどのようなことですしょうか?

山路 先日、愛知県岡崎市の動物総合センター(※)で講演をさせていただいた時、聞きに来てくれた地域の人たちのなかには小さい子もいて、そこでもお話ししたのですが、戦場では次の瞬間生きているかわからない状況に置かれている人たちが生き延びる術は、想像力を働かせることなんです。ところが、日本の場合は物質的に豊かですよね。考える前に目の前に物があるから、欠落していくものがある。「なんでもある」ということは「なんにもない」ということでもあって。そのなかで命の問題を教える状況や機会が少ないと想像力も働かせることができない。これは危機的状況だと思うんですよ。

※岡崎市動物総合センター/これまで岡崎市の保健所・環境部・経済振興部など別々の管轄で対応していた動物関連窓口を一元化し、動物に関するより専門的な相談体制を整備した総合施設。

「有事の時に犬猫を置き去りにしてもいい」と子どもたちに思わせたくなかった

OB 福島原発20キロ圏内での犬猫救出活動にはどのような思いやきっかけがあったのでしょうか。

山路 もちろん立ち入りができなくなってしまった避難区域に置き去りにされた犬猫の命を救うことが目的でスタートしました。でもそれだけじゃなく、この状況を子どもたちが見て、「有事の時は犬猫を置き去りにしてもいいんだ」と思ってしまってはいけない、危険な場にこそ、大人が身を投じて助けにいくんだということを見せないと、という思いが強くありました。犬や猫の命を救うことはもちろんですが、同時にこの活動を通して子どもたちに「どんなときも命をは見捨ててはいけないんだ」ということを知ってほしいと思っています。人間が社会で生かしていた犬猫は〝社会として〟責任をとるべき。そう思うんです。

OB 山路さんを動物愛護活動へ向かわせる原動力は何なのでしょうか?

山路 僕は仕事で難民の避難所を訪れることがありますが、そこには犬や家畜も一緒に避難してることが当たり前。それを目の当たりにしている自分にとって、災害時に飼っている動物と一緒に避難することができない、ましてや飼育を途中放棄するという状況は受け入れ難いことです。動物の専門家でもない僕が突き動かされるように福島の活動や殺処分問題に取り組んでいるのはそういう思いが背景にあるように思います。

OB 日本がより動物福祉国として発展していくためには何が必要でしょうか。

山路 犬や猫がどれだけ守られているのかは、社会の成熟度のバロメーターなんですよ。犬猫が最初に犠牲になるという考え方がまだ日本の場合どこかにあるような気がしていて、そのこと自体がとても未熟なこと。そもそも、小さな命を守れない社会がなぜ人間を守れるのか。小さな命の大切さを訴えていくことで、動物福祉国としての発展を目指したいですね。

山路徹(やまじとおる)

1961年東京生まれ。TBSテレビ、テレビ朝日系プロダクションを経て1992年に独立し、国内初の紛争地専門の独立系ニュース通信社APF通信社を設立。これまで、ビルマ、ボスニア、ソマリア、カンボジア、アフガニスタンほか、世界の紛争地を精力的に取材する。近年は、国内の事件、事故、災害、社会問題などの調査報道にも取り組む傍ら、東日本大震災による被害を受けた犬猫を救う「福島原発20キロ圏内 犬猫救出プロジェクト」の立ち上げや犬猫の殺処分問題についての講演会など動物愛護活動も行っている。